- はじめに
- 第1章:警備業界の背景とM&Aが活発化する理由
- 第2章:主要企業のM&A事例一覧とその特徴
- 2-1. ALSOK(綜合警備保障)グループの事例
- 2-1-1. エイチ・ツー・オーリテイリング<8242>傘下のカンソー子会社化(2024年9月4日発表)
- 2-1-2. インドネシア人材派遣・警備事業SOS(Shield-On Service)子会社化(2023年6月12日発表)
- 2-1-3. 関西電力傘下の介護事業会社かんでんジョイライフ、かんでんライフサポートの子会社化(2022年6月6日発表)
- 2-1-4. らいふホールディングスの子会社化(2020年4月7日発表)
- 2-1-5. インドネシア警備会社PT.Barungu Aneka Sistem Sekuriti買収(2016年10月11日発表)
- 2-1-6. アズビル傘下のアズビルあんしんケアサポート子会社化(2015年1月19日発表)
- 2-2. セコムグループの事例
- 2-3. セントラル警備保障(CSP)グループの事例
- 2-4. 共栄セキュリティーサービスグループの事例
- 2-5. トスネットグループの事例
- 2-6. 東洋テックグループの事例
- 2-7. 日本ハウズイングやイオンディライトなどビル管理系大手の事例
- 2-8. その他の notable 事例
- 2-1. ALSOK(綜合警備保障)グループの事例
- 第3章:M&Aに見る警備業界の主要トレンド
- 第4章:M&Aのメリットとリスク
- 第5章:今後の見通しと警備業界の展望
- 結論
はじめに
近年、警備業界におけるM&A(企業の合併・買収)が相次いでいる。警備業は人手不足の深刻化や、2025年大阪・関西万博をはじめとした大型イベントへの対応、さらに新型コロナウイルス感染拡大以降の社会構造変化など、さまざまな環境変化に直面している。こうした状況に対応するため、警備会社各社はグループ体制の強化や事業ポートフォリオの拡張、他社とのシナジー創出を目的にM&Aに踏み切る例が増えている。
警備会社はもはや、施設警備・交通誘導警備・イベント警備といった“人的警備”だけでなく、設備管理や清掃業務、ビルメンテナンス、さらには介護事業や人材派遣など多岐にわたる周辺事業を展開する総合サービス産業へと変革している。業務範囲の拡大に合わせて、技術系企業や海外企業との連携が求められる時代になってきた。
本稿では、2020年代に入ってから特に活発化している警備業界のM&A事例を幅広く整理し、そこから浮かび上がるトレンドや戦略的意義、さらに今後の展望について解説する。掲載する事例はビルメンテナンス事業や清掃事業、介護事業といった周辺サービスを取り込むケース、あるいは海外展開に向けた子会社化など多岐にわたっている。記事後半では、業界全体が抱える課題やM&Aの狙いを考察しながら、警備業界の将来像を描いていく。
第1章:警備業界の背景とM&Aが活発化する理由
1-1. 警備業界の市場環境
警備業界は国内市場規模が約4〜5兆円程度とされ、大手4社(いわゆる“SSK”(セコム〈9735〉・ALSOK〈2331〉・セントラル警備保障〈9740〉・綜合警備保障〈同じくALSOKの旧名称だが業界では区別されることもある〉)のほか、中堅企業が全国規模または地域密着で事業を展開している。
一方で、建設業界やインフラ事業からの交通誘導警備需要は堅調なものの、少子高齢化による人手不足、警備員の高齢化と若年層の確保難といった構造的課題が深刻化している。警備員の質・量ともに十分な確保が難しくなりつつある中、企業同士が連携して広いエリアでサービス提供を行う必要性が増した。また、2025年に開催予定の大阪・関西万博、再開発が進む都市部、インバウンド需要の回復などを見据えた警備需要の拡大にも対応しなければならない。
1-2. M&A活発化の主な要因
- 人員確保の課題
警備業では人的サービスが主軸であり、人員不足が大きなリスクとなる。他社との提携や企業買収によって警備員を自社グループに取り込むことで、即戦力の人員を確保しやすくなる。 - 地域補完によるエリア拡大
地方の中小警備会社を取り込むことで、新たなエリアに進出したり、隣接するエリアとの連携をスムーズにしたりできる。単独での地盤拡大には限度があるため、既存企業を傘下に入れる手法が効果的。 - ワンストップサービスの追求
警備に加えて、ビルメンテナンス・清掃・設備管理など建物管理サービス全般を一括提供する需要が高まっている。大手を中心に周辺事業の企業をM&Aするケースが多い。 - 事業領域の多角化・DX推進
警備事業を出発点としつつ、介護、警備輸送、人材派遣など別事業をポートフォリオに加えて収益源を多様化したいニーズが高まる。またIT化・DXの進展により、警備システムやカメラシステムなどのIT系子会社を取り込む事例も見られる。 - 海外展開の加速
インドネシアなど成長著しいアジア新興国での警備需要を狙って、現地企業を買収する動きも活発化している。大手警備会社が積極的に海外M&Aに踏み出しており、今後はさらなるグローバル化が進む可能性がある。
第2章:主要企業のM&A事例一覧とその特徴
以下では、近年注目を集めた警備業界のM&A事例を、取得企業(買い手)ごとに整理してみる。事例ごとに取得対象の事業内容や取得目的、シナジー、今後の展望などを記す。
2-1. ALSOK(綜合警備保障)グループの事例
2-1-1. エイチ・ツー・オーリテイリング<8242>傘下のカンソー子会社化(2024年9月4日発表)
- 買収概要
- 買収先:エイチ・ツー・オーリテイリング傘下のカンソー(大阪市)
- 事業:ビルメンテナンス業(設備管理、清掃、衛生管理、駐車場管理、警備)
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2024年12月1日
- 目的・背景
ALSOKのファシリティー・マネジメント事業拡大と関西地域での基盤強化。カンソーは関西で約50年の歴史を持つ老舗のビルメンテナンス企業で、警備業務も手がけている。ALSOKの警備サービスとカンソーの建物管理ノウハウを統合することで、関西における総合サービスの体制強化を図る。 - シナジー
- ALSOKの警備ネットワークとカンソーの顧客網を合わせ、法人顧客への提案力強化
- 設備管理・清掃分野での人材育成やノウハウを共有することで、サービス品質の向上
- エイチ・ツー・オーリテイリングが持つ商業施設等へのサービス展開拡大
2-1-2. インドネシア人材派遣・警備事業SOS(Shield-On Service)子会社化(2023年6月12日発表)
- 買収概要
- 買収先:PT. Shield-On Service Tbk(ジャカルタ、SOS)
- 事業:人材派遣、警備、清掃、駐車場管理
- 取得比率:最初51.23%→その後79.3%まで追加取得
- 取得価額:非公表
- 目的・背景
インドネシアの経済成長に伴う警備需要の拡大と、日系企業だけでなく現地企業へのサービスを本格的に提供するため。ALSOKは2013年にALSOKインドネシアを設立していたが、さらに大手現地企業を買収することで、ビジネス展開を加速させる。 - シナジー
- 現地大口顧客(シナルマス・グループなど)への警備・人材サービス拡販
- SOSが有するインドネシア全国ネットワークとALSOKの教育研修システムを融合
- 海外展開におけるモデルケースとしての蓄積(他アジア諸国への波及)
2-1-3. 関西電力傘下の介護事業会社かんでんジョイライフ、かんでんライフサポートの子会社化(2022年6月6日発表)
- 買収概要
- 買収先:関西電力の連結子会社である2社
- 事業:有料老人ホーム運営など介護事業
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2022年6月22日
- 目的・背景
ALSOKは2012年から介護事業へ参入。高齢化社会の進行により、介護市場は今後も拡大が予測される。関西でトップクラスのブランド力を持つかんでんジョイライフと、その関連会社を傘下に加え、介護事業における拠点拡大とスケールメリットを狙った。 - シナジー
- 介護施設への警備システム導入・安心サービス提供
- 介護事業ノウハウの共有と従業員の相互研修
- 新規施設開設や周辺サービス(看護・医療連携など)開発
2-1-4. らいふホールディングスの子会社化(2020年4月7日発表)
- 買収概要
- 事業:らいふ(介護事業)とエムビックらいふ(食品検査事業)を傘下にもつ持株会社
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2020年4月30日
- 目的・背景
らいふは首都圏を中心に介護施設を運営しており、ALSOKが掲げる介護事業強化に合致。さらに食品検査事業も並行して手がけており、感染症リスクの高まりの中で衛生管理分野のニーズも期待される。 - シナジー
- 首都圏の介護施設での防犯・防災体制強化
- 衛生管理・食品検査との連携による付加価値向上
- 施設運営ノウハウと警備サービスを組み合わせた新規プラン開発
2-1-5. インドネシア警備会社PT.Barungu Aneka Sistem Sekuriti買収(2016年10月11日発表)
- 買収概要
- 取得比率:49%(社名をPT.ALSOK BASS Indonesia Security Servicesに変更)
- 取得価額:非公表
- 目的・背景
インドネシアでの事業拡大。同国では経済発展に伴う警備需要が大きく、日系企業や富裕層への質の高い警備が求められている。2013年に設立したALSOKインドネシアに続き、現地大手企業を直接買収し拠点を広げた。 - シナジー
- 日系企業向けサービスの質的向上
- インドネシア全国展開とアルソックブランドの定着
- ローカル企業のネットワークを活かした受注拡大
2-1-6. アズビル傘下のアズビルあんしんケアサポート子会社化(2015年1月19日発表)
- 買収概要
- 取得先:アズビルグループ
- 事業:緊急時対応サービスを提供するACS
- 取得価額:非公表
- 目的・背景
高齢者向け「みまもり」サービスや在宅警備サービスの強化。アズビルあんしんケアサポートの既存利用者やノウハウを取り込むことで高齢者向け事業を拡張する。 - シナジー
- ホームセキュリティと介護関連サービスの連動
- 見守りシステムの共同開発
- 既存のALSOK顧客基盤との相互送客
2-2. セコムグループの事例
2-2-1. 中堅警備業セノンを子会社化(2022年5月12日発表)
- 買収概要
- 株式取得比率:55.1%
- 取得価額:270億5900万円
- 取得予定日:2022年7月1日
- 目的・背景
大型商業施設や空港保安業務を強みとするセノンは1969年設立で、売上高343億円と中堅の中では大きな規模。全国35空港の保安実績を持ち、空港数・売上ともにトップクラスである。セコムは総合セキュリティ企業として業容拡大を狙い、空港警備分野のシェアをさらに高めたい意向。 - シナジー
- 空港警備ノウハウの相互活用
- 大規模施設警備の営業協力強化
- セノンの人的警備経験とセコムの機械警備・IT技術の融合
2-2-2. 東芝警備子会社の東芝セキュリティ買収(2018年4月16日発表)
- 買収概要
- 買収先:東芝グループ
- 取得比率:80.1%
- 取得価額:約26億円
- 目的・背景
東芝セキュリティは東芝のグループ内警備を中心に大規模工場やオフィスを担当。セコムは大型施設の警備経験とノウハウを獲得し、さらに東芝グループ以外への展開も期待。 - シナジー
- 大手電機メーカーの広大な設備警備ノウハウを吸収
- 東芝グループ以外の法人顧客開拓
- AIやIoTなど先進技術との連携
2-2-3. 東京電力子会社アット東京株式取得(2012年9月27日発表)
- 概要
データセンター事業を主力とするアット東京(売上高262億円)の株式を取得し、33.3%保有。これによりアット東京は東電の子会社から外れ、セコムと協業体制へ。警備事業にとどまらずIT分野(データセンター監視など)での連携強化を狙った。
2-3. セントラル警備保障(CSP)グループの事例
2-3-1. 阪急阪神ハイセキュリティサービスの常駐警備事業取得(2024年5月15日発表)
- 買収概要
- 事業:常駐警備(直近売上高21億9100万円)
- 取得価額:12億円
- 取得予定日:2024年7月1日
- 目的・背景
関西地区の警備基盤を強化し、大阪・関西万博や大阪梅田エリア再開発に対応する警備需要に備える。阪急阪神ホールディングス傘下企業が保有する既存顧客と提携して、CSPは関西エリアの事業拡張を図る。 - シナジー
- 関西エリアでの契約拠点増加
- 大阪万博での警備・セキュリティ需要取り込み
- 事業譲渡元との連携による駅舎・商業施設などの包括的な警備
2-3-2. 栃木県の東亜警備保障子会社化(2023年4月25日発表)
- 買収概要
- 取得株式:74.7%
- 事業:常駐警備、機械警備、運輸警備など
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2023年4月26日
- 目的・背景
地方の地域補完型企業としての位置づけ。東亜警備保障は栃木県で長い歴史を持つ老舗企業で、売上高9億500万円、営業利益6400万円と堅実。CSPグループが関東北部でのプレゼンスを高める狙い。 - シナジー
- 地域ネットワークを活かした公共施設や地域イベント警備の獲得
- 機械警備や遠隔モニタリング技術の導入による業務効率化
- グループ間での人員融通とサービス統合
2-3-3. 警備業CSP東北の子会社化(株式追加取得)(2021年6月25日発表)
- 買収概要
- 取得比率:31%→67%へ
- 取得価額:非公表
- 目的:東北地区におけるグループ連携強化
- シナジー
- 東北エリア(仙台を中心)でのグループ内調整を最適化
- 大手・中堅企業の工場警備や大規模施設警備受注を狙う
- 自然災害リスクがある地域での防災・防犯サービス強化
2-3-4. 神奈川県平塚市の特別警備保障子会社化(2016年8月25日発表)
- 買収概要
- 取得比率:60.3%
- 取得価額:非公表
- 目的:関東エリア強化
- シナジー
- 機械警備・警備輸送業務と人的警備の統合
- CSPが持つ機械警備技術の導入
- 幹線道路・インフラの交通誘導警備拡充
2-4. 共栄セキュリティーサービスグループの事例
近年、共栄セキュリティーサービス<7058>は首都圏を中心とした中小警備会社の買収を活発化させている。主に交通誘導警備や施設警備、人材派遣的要素を含む中小企業を取り込み、エリア拡大と人員確保を同時に狙っている。
2-4-1. ネオ・アメニティーサービス子会社化(2024年12月17日発表)
- 買収概要
- 事業:警備・ビルメンテナンス(売上高3億700万円)
- 取得価額:2200万円
- 取得予定日:2025年1月9日
- 目的・背景
共栄セキュリティーサービスが有する警備ノウハウとビルメンテナンスを組み合わせ、収益機会拡大。千葉県を中心に展開しているネオ・アメニティーサービスの専門性を活かし、グループのサービスラインナップを強化。 - シナジー
- 首都圏エリアでのビルメンテ事業拡充
- 警備だけでなく建物総合管理を行う体制づくり
- 既存顧客へのクロスセル
2-4-2. 東邦警備保障子会社化(2024年3月11日発表)
- 買収概要
- 事業:施設警備、交通誘導警備(売上高1億4600万円)
- 取得価額:非公表(セキュリティ<所沢市>を通じて買収)
- 取得目的:関東圏の需要拡大に対応
- シナジー
- 埼玉県朝霞市周辺の交通誘導警備需要取り込み
- 子会社セキュリティとの連携による人員最適配置
- 首都圏各地での警備体制強化
2-4-3. セキュリティ(所沢市)子会社化(2023年10月17日発表)
- 買収概要
- 事業:施設警備、交通誘導警備(売上高5億8200万円)
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2023年10月26日
- 目的・背景
人員数とエリア補完体制の拡充。所沢市を拠点に東京・埼玉方面への警備サービスを提供している会社をグループに加えることで、首都圏での警備網をさらに強化する。 - シナジー
- 交通誘導警備のリソースを統合し、人員効率化
- 首都圏顧客への提案力向上
- グループ規模拡大による仕入れコスト削減や教育研修の統合
2-4-4. 東神産業子会社化(2023年10月2日発表)
- 買収概要
- 事業:施設警備、交通誘導警備(売上高6億3000万円)
- 取得価額:非公表
- 取得日:2023年10月2日
- 目的・背景
神奈川方面(横浜市)での人員増とエリア拡大。同社が抱える赤字(営業利益△400万円)をグループ内で改善し、効率的な運営を目指す。 - シナジー
- 横浜・川崎方面の工事現場警備などでの需要獲得
- 他グループ子会社との連携
- 赤字部門の改善とコストシナジー
2-4-5. 合建警備保障子会社化(2023年1月27日発表)
- 買収概要
- 事業:施設警備、交通誘導警備(徳島県)
- 売上高:11億8000万円
- 取得予定:2023年2月〜3月初旬(同年2月17日取得完了)
- 目的・背景
四国エリアへの進出を本格化。徳島県内トップクラスの警備会社を傘下にすることで、西日本方面での事業基盤を獲得。 - シナジー
- 中四国地方での新規顧客獲得
- 徳島県内での警備員確保
- 既存顧客の紹介・相互利用
2-4-6. ダイトーセキュリティー子会社化(2022年8月17日発表)
- 買収概要
- 事業:施設警備、交通誘導警備(東京・神奈川)
- 売上高:3億8100万円
- 取得日:2022年8月17日
- 目的・背景
首都圏中心の中小警備会社の傘下取り込みを進める方針に沿ったもの。ダイトーセキュリティーは1994年設立で、地域密着型の営業基盤を持っている。 - シナジー
- 地域顧客との接点拡大
- 施設警備とイベント警備の統合調整
- 教育研修の共有・統一化
2-4-7. その他の子会社化例
- 東邦警備保障(埼玉県朝霞市、2024年3月11日)
- セキュリティ(埼玉県所沢市、2023年10月17日)
(上記で個別に記載済み)
2-5. トスネットグループの事例
東北・北海道エリアを中心とするトスネット<4754>は、多数の警備会社を傘下に収め、地域ごとに連携を強化している。
2-5-1. NEXT(東京都福生市)子会社化(2024年5月20日発表)
- 買収概要
- 事業:警備(交通誘導メイン)
- 売上高:1億4500万円
- 営業利益:312万円
- 取得日:2024年5月17日
- 目的・背景
首都圏(多摩地区)での警備需要取り込み。グループ企業のトスネット首都圏、三洋警備保障などとの相互補完を図る。 - シナジー
- 都市再開発やインフラ整備での交通誘導需要に対応
- 人員融通による効率化
- 顧客基盤の相互紹介
2-5-2. アイワ警備保障(千葉県睦沢町)子会社化(2024年4月10日発表)
- 買収概要
- 事業:施設警備、交通誘導(官公庁、病院、税務署など)
- 売上高:4億3300万円
- 営業利益:△444万円
- 取得日:2024年4月9日
- 目的・背景
千葉エリアでの警備需要獲得。警備事業の首都圏エリア拡大が狙い。すでに千葉市の日本保安や神奈川県のエイコーなどを子会社に持ち、さらに連携を深める。 - シナジー
- 千葉県内の官公庁・医療機関との取引実績活用
- 赤字部門の改善
- 首都圏全体への警備員派遣体制強化
2-5-3. 警備業トップロード(新潟)子会社化(2023年1月24日発表)
- 買収概要
- 売上高:6億7600万円
- 営業利益:3400万円
- 純資産:5億5400万円
- 取得価額:5億8200万円
- 取得日:2023年1月23日
- 目的・背景
新潟県での交通誘導やイベント警備を手がける会社を買収し、トスネット上信越との連携強化。上信越エリア(新潟・長野・群馬)でのシェア拡大が狙い。 - シナジー
- イベント警備ノウハウを共有
- 交通誘導警備員の広域的配置転換
- 新潟以外の近隣県への営業展開
2-5-4. 北海道のアーバン警備保障子会社化(2017年10月31日発表)
- 買収概要
- 売上高:1億8200万円
- 営業利益:4万円
- 取得価額:1億800万円
- 取得日:2017年10月27日
- 目的・背景
北海道内で警備事業や電源供給事業を展開するI・C・Cインターナショナルなど既存子会社との連携強化。地域ニーズに合わせた警備とイベント・工事現場警備でシナジーを期待。 - シナジー
- 市内2社(アーバン警備保障、I・C・C)との連携による顧客開拓
- 札幌拠点の拡充
- 相互の人材教育システム統合
2-5-5. 北海道の北日本警備子会社化(2019年7月3日発表)
- 買収概要
- 売上高:3億1000万円
- 営業利益:837万円
- 取得価額:2億50万円
- 取得日:2019年7月3日
- 目的・背景
警備事業の要である交通誘導警備をさらに強化し、トスネットグループとして北海道全域でのサービス拡張を目指す。 - シナジー
- 札幌市を中心とした工事現場警備・イベント警備のシェア拡大
- グループ各社と連携した機械警備も視野
- 人員確保の手段として多店舗展開
2-6. 東洋テックグループの事例
関西エリアを中心に警備・ビル管理を手がける東洋テック<9686>も、周辺事業の企業買収に積極的である。
2-6-1. 関西ユナイトプロテクション子会社化(2024年6月3日発表)
- 買収概要
- 売上高:11億円
- 営業利益:7250万円
- 純資産:5億6800万円
- 取得日:2024年6月3日
- 取得価額:非公表
- 目的・背景
イベント警備に強みを持つ同社のスキルとノウハウを取り込み、警備のサービスラインアップを拡充する。関西圏でのスポーツ・音楽・文化イベントなどの需要増を見越している。 - シナジー
- 従来の常駐警備・交通誘導警備にイベント警備を加えた総合力アップ
- 大阪エリアでの知名度向上
- スタジアムやコンサートホールとの提携拡大
2-6-2. 明成子会社化(2020年10月1日発表)
- 買収概要
- 事業:消防用設備・監視カメラなどの電気工事、清掃事業
- 売上高:3億7800万円
- 営業利益:2500万円
- 取得価額:非公表
- 取得日:2020年10月1日
- 目的・背景
警備事業やビル管理事業と電気工事の親和性が高い。施設内の監視カメラ・消防設備などの施工・保守を内製化しやすくなり、東洋テックグループとしてワンストップ提供が可能になる。 - シナジー
- 警備業務に必要な機器メンテナンスの効率化
- ビルメンテに関わる電気工事のコスト削減
- 清掃事業との連携でビル運営の包括管理体制を構築
2-6-3. 新栄ビルサービス子会社化(2020年4月1日発表)
- 買収概要
- 売上高:10億7300万円
- 営業利益:1290万円
- 純資産:1億6300万円
- 取得日:2020年4月1日
- 取得価額:非公表
- 目的・背景
建物総合管理会社の買収によりビル管理・清掃・警備の一体運営を狙う。関西圏で施設管理の大口顧客への提案を強化し、東洋テック本体の警備部門と補完する。 - シナジー
- 顧客先ビルに対する常駐管理+警備のセット売り
- 設備管理のノウハウ共有
- クレーム対応のワンストップ化
2-6-4. 五大テック子会社化(2022年4月28日発表)
- 買収概要
- 売上高:24億8000万円
- 営業利益:3210万円
- 純資産:5億9500万円
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2022年5月30日
- 目的・背景
施設警備業務に強みを持つ五大テックを取り込み、ビル管理・警備・清掃の一体運営をさらに推進。関西最大都市である大阪を拠点に、ホテルや商業施設などの顧客を抱える五大テックのネットワークを活用。 - シナジー
- 大阪エリアでの常駐警備需要強化
- 五大テックの設備管理スキルと東洋テックの警備ノウハウの融合
- メガイベントや再開発プロジェクトへの参画
2-7. 日本ハウズイングやイオンディライトなどビル管理系大手の事例
2-7-1. 日本ハウズイングによる三井E&Sホールディングス子会社MESファシリティーズの買収(2021年12月23日発表)
- 事業
- 人材派遣、自動車教習所、保険代理店、薬局、警備など多角サービス
- 売上高82億8000万円、営業利益3億5500万円
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2022年4月1日
- 目的・背景
マンション管理大手の日本ハウズイングがサービス領域を拡大し、事業基盤を強固にする。多岐にわたる事業を手がけるMESファシリティーズのノウハウを取り込むことで、総合的な不動産管理サービスを狙う。 - シナジー
- 警備や清掃、人材派遣、その他の多角業態との連携
- 顧客基盤の相互活用
- 建物管理を中心とした運営ノウハウの向上
2-7-2. イオンディライトによる中国医療機関向けサービス会社子会社化(2021年10月25日発表)
- 事業
- 浙江美特来物業管理有限公司(杭州)
- 清掃、院内運送、警備、設備管理、患者付添
- 売上高約7億円
- 取得価額:総額2805万人民元(約4億8400万円)
- 中国子会社を通じた買収
- 目的・背景
中国の医療施設向けにビルメンテナンスと警備サービスを一括提供する需要が高まっている。イオンディライトは中国でのファシリティマネジメント事業を拡大中であり、医療分野への参入を加速するために買収を決定。 - シナジー
- 中国医療機関向け清掃・警備サービス強化
- 現地従業員の教育研修システム整備
- 中国各都市での営業拡大
2-8. その他の notable 事例
- アウトソーシング<2427>によるアーク警備システム、アークミライズ買収(2021年10月8日)
交通誘導・雑踏警備請負を手がける2社を買収し、エッセンシャルワーカー領域として警備事業を強化する狙い。高齢者雇用の場確保にもつながると発表。 - セコムによる子会社セコム上信越<4342>のTOB(2021年5月28日)
地域子会社を完全子会社化し、経営判断を迅速化する。新潟・群馬・長野エリアでのサービス拡充を図る。 - 大成<4649>のMBO(経営陣による買収)による上場廃止(2021年2月8日)
新型コロナ禍でのオフィス需要見直しに伴い、ビルメンテナンス事業環境の不透明化。機動的な経営体制を構築するため上場廃止を選択。 - エルテス<3967>による警備業アサヒ安全業務社買収(2020年11月30日)
ソーシャルリスク対策・IT系セキュリティを手掛けるエルテスがリアルな警備事業を取り込み、デジタル技術との融合を推進。 - パソナグループ<2168>によるNTTグループの人材サービス取得事例(2017年前後)
警備事業ではないが、警備・運転手の請負事業を除く人材派遣サービスを継承。人材確保が重要な警備業にも関連する動き。
第3章:M&Aに見る警備業界の主要トレンド
3-1. ビルメンテナンス・清掃企業の取り込み
警備会社がビルメンテナンスや清掃、設備管理企業を傘下に収める例が急増している。施設警備と設備管理は親和性が高く、両方を一括で受託することで契約単価を上げられ、顧客にとっても一体運営による利便性が高い。東洋テックやALSOK、セコムなど大手警備会社がこぞって周辺事業を取り込み、総合ビル管理サービスを構築している。
3-2. 地域の中小警備会社の買収によるエリア戦略
共栄セキュリティーサービスやトスネット、セントラル警備保障などは、地域に根ざした警備会社を次々と買収し、広域での対応力を整備している。少子高齢化が進む地方では、単独で人員を確保し続けることが難しく、M&Aによって大手資本・中堅資本の傘下に入ることで生き残りを図るケースが多い。買い手側は地方公共団体やインフラ関連の案件、官公庁施設警備をはじめとした安定的な収益が得やすい顧客を取り込めるメリットがある。
3-3. イベント警備ニーズと大型再開発への対応
大阪万博や各地の再開発、国際的なスポーツ大会・音楽フェスなどのイベント警備ニーズが拡大。イベント警備に強みを持つ企業を買収することで、専門ノウハウや人材を獲得する動きが顕著だ。東洋テックによる関西ユナイトプロテクションの買収事例が典型である。
3-4. 介護・医療など異業種への多角化
ALSOKやセコムが先導する形で、介護事業への参入が警備業の新たな柱となりつつある。高齢化により需要が増大し、安定収益が見込める上に、見守りサービスや緊急通報サービスといった警備の延長線上にも位置づけられるため、シナジーが大きい。さらに海外では病院警備の受託など医療関連サービスが拡大しており、イオンディライトのように中国で医療施設を対象に清掃・警備を一括提供する動きも目立つ。
3-5. 海外展開とグローバル人材の確保
大手警備企業は国内需要の限界や労働力不足に対応すべく、成長市場への進出を加速している。ALSOKがインドネシアで警備会社SOSを買収した例はその代表格。IT技術や教育ノウハウを活かし、日系企業はもちろん、現地企業や官公庁に対しても高品質な警備サービスを提供する戦略だ。今後、アジア以外の地域へも進出が広がる可能性がある。
第4章:M&Aのメリットとリスク
4-1. メリット
- 人材確保
既存社員・警備員の吸収により、即戦力として活用できる。特に地方では若年労働力の確保が難しいため、買収による人的リソース獲得は重要。 - サービスラインナップ拡充
清掃や設備管理、介護など異なる事業ドメインを取り込むことで、ワンストップサービスや新たな付加価値サービスを提供しやすくなる。 - 地域密着ノウハウ・ブランド獲得
地方企業を買収することで、その土地で培われた人脈やブランド力を継承できる。地域顧客の安心感を得やすい。 - スケールメリットによるコスト削減
経理や人事、教育研修などバックオフィス機能を集約することでコストダウンが期待できる。 - 新規市場・海外市場への参入
海外企業や他業種の企業を買収すれば、一足飛びに現地ノウハウやライセンスを得られる。
4-2. リスク
- 人材流出・企業文化の違い
買収後に現場のモチベーションや社風の不一致から社員離職が起こる恐れ。警備員の大量離職は大きなダメージにつながる。 - 買収対象の赤字部門や債務負担
中小企業を買う際に赤字部門が潜んでいる場合、再建コストがかさむ可能性あり。買い手側に管理能力が求められる。 - 統合シナジーの想定外の遅れ
警備事業は地域性が強く、統合メリットの発現には時間がかかる場合がある。システム統合や教育研修の一本化がうまく進まない事例もある。 - 海外特有の法規制・政治リスク
インドネシアなど新興国での警備事業展開には、政治や社会情勢の不安定要素、現地ライセンス取得の制約などがつきまとう。 - 過熱感による買収コストの上昇
警備業界のM&Aが活発化すると買収価格が吊り上がり、期待リターンを得にくくなるリスクもある。
第5章:今後の見通しと警備業界の展望
- 大型イベント需要のピークアウト後も、再開発プロジェクトは続く
大阪・関西万博は2025年に開催だが、その後も都市再開発やインバウンド復調、インフラ老朽化対策など警備ニーズが底堅く推移する見込み。イベント警備や交通誘導警備の需要はしばらく続く。 - 人員不足への抜本対策とDX
人材不足が深刻化するなか、警備ロボットやAI監視カメラなどの機械化が進む。DXに強みを持つIT企業との連携や、警備教育のオンライン化・遠隔モニタリングシステムの高度化が進むため、IT領域のM&Aも増える可能性がある。 - 地域格差の拡大
地方での警備員不足はさらに深刻化し、中小企業の淘汰が進む。大手・中堅が積極的に買収を仕掛ける構図は引き続き続くと見られる。買収先が枯渇すれば、警備会社同士の競争が激化し、買収価格が上昇するリスクも。 - 介護・医療分野へのさらなる進出
高齢者向け見守りサービスや病院・クリニック警備など、医療介護との親和性は大きい。ALSOKやセコムに続き、第2・第3の大手警備企業が本格参入する動きが加速する可能性が高い。 - 海外展開の多様化
インドネシアやタイ、ベトナムなど新興国での警備需要は拡大が見込まれる。今後は中国以外のアジア市場のみならず、欧米の一部市場にも参入するケースが増えるかもしれない。
結論
警備業界のM&Aは、企業規模の拡大だけが目的ではなく、人材確保や地域シェアの拡大、周辺サービスとのシナジー創出、海外進出やIT・DX分野の強化といった、多様な狙いを伴って進められている。警備は社会インフラの一翼を担う重要なサービスであり、日本社会における安心・安全に直接かかわる。
少子高齢化や働き手不足が深刻化する中、一社単独で警備員を必要数そろえるのが難しく、M&Aによる効率的な経営資源の獲得が業界全体の課題解決に寄与している。一方で、買収後に統合効果を最大化するためには、人材の定着と社内文化・教育体制の統合が不可欠であり、決して容易ではない。今後は警備業の枠にとどまらず、ビル管理や介護、ITなど周辺業種も巻き込みながら、警備という概念そのものが大きく広がっていくと考えられる。
大手・中堅がリードする形で進むM&Aの波は、さらに地域中小企業を巻き込み、警備業界の再編を加速させるだろう。業界の枠を超えた企業連携も進み、警備は“社会の安全確保”の側面と、“総合サービス”としての側面を併せ持つ存在となりつつある。技術革新やグローバル化の進展を背景に、新しい形の警備サービスが求められる中で、M&Aはその変革を支える重要な手段としてこれからも存在感を高めていくに違いない。